「あら、おかえり」
「ただいま」
「おっ、景気良さそうだな」
「まぁね」
 そう大きくもない村。
 歩けば結構な確率で知り合いに遭遇するし、市場の人たちはみんな気さくだからこうやって気軽に話しかけてくる。
 はっきり言って、都会のような華やかさはない。けれど同じで違う、賑やかな雰囲気は嫌いじゃない。
 ……まぁ、故郷だから。というのも当然あるんだろうけどな。
「そういや知ってるか?レイが旅に出たんだよ。しかも、女の子と一緒に!」
 何気なく足を止めれば、それはそれは楽しそうに教えてくれた。
「──私も見た見た。可愛い子だったね」
「あの子、彼女だったのかな?ヴァネッサさんと仲良さそうに買い物してるところ見たけど……」
「お前もそう思うか!?依頼人って感じじゃねぇよな。あれ」
 その結果、気付いた時にはおもしろいように集まってきたお客さんの束に囲まれていた。いや……野次馬根性、さすがです。
 というか……楽しそうだなぁ〜。これ、戻ってきた時大変だぞ〜。レイ。
「会えなくて残念だったな〜、ケビン」
「ざ〜んねん。知ってる。つーか会った」
「マジか!?お前から見てどうだった!?」
「普通〜に仲良さそうだったぞ」
 うん。あれを見たら、大抵の奴は関係性が悪いとは言わない。
 想像しているような間柄じゃなかったけどな。……とは告げないでおく。その方があとでおもしろそうだし。
「へぇ〜」
 ……いや……少し助け舟を出しといた方がよかった、か?
「俺、そろそろ報告行ってくる」
 ニヤニヤと想像以上に頬を緩ませてるおじさんたちを見つけて、ちょっとそう思ったけど……知〜らねっと。レイ、頑張れよ。




 


「ただいま、あのさー」
「レイなら行方不明中」
「……は?」
「質問違った?」
「……合ってる、けど……」
 開口1番、意味不明。
 聞きたいことを1発で言い当てたのはさすがだけど……何だそれ?
「だってあの子、メルプレナに行ったってヴァネッサさんに私信送って以降、何の情報も寄越さないんだもん。……っていうか、あんたのところにも来てるんじゃない?手紙。ねぇ、何て書いてあった?」
「思いっ切り私信」
「もう〜」
 これは胸を張れる。私信だったと言い切れる。……そもそも、さ。レイに情報収集とか、頼むだけムダだと思うぞ?
 向いてないだろ、あいつ。
 ……でも、だからって……情報くれないから行方不明って……結構横暴だと思うの、オレだけですか?
「こっちとしては欲しいの。大陸渡ってて、律儀に逐一情報くれる人って貴重よ?」
「まぁ、ね」
「ここで仕事してる私の存在を知ってるんだから、もう少しマメになりなさい!」
「オレに怒られてもねー」
 ともあれ、言いたいことは理解できなくもない。
 この人はここで、依頼の仲介やら他国情勢情報収集やら、受付っぽくも事務っぽいお仕事をされているわけだから。
「ヴァネッサさんには悪いけど、本当にあの子で大丈夫かなぁ……」
 はぁ……。と深刻そうなため息を前にしたら、自然と乾いた笑みが浮かんでしまう。
 いや、悪いとは思うけど。やっぱり理解できなくはないわけで……だってレイ、お前さ……
「あの子時々、本能で生きてるからなぁ」
 あぁ〜……。それもあるな。それもあるけど……建前と本音が下手くそそうだもん。使い分けれなそうだもん。
「本能で生きてるから、今頃上手い方向に転がってるかもよ?」
「本能で生きてるから、王様怒らせて首が転がってないといいけど……」
 ……何サラッと怖いこと言ってんの?この人。
 何が怖いって……否定できない!
 心の赴くままに気が付いたらズバッと言ってて、気付いたら偉い人怒らせてる図とか、結構すんなり想像できるんだけど……。
「やだ、何ちょっと本気になってんの?」
 ……。本気で心配するような事態を引き起こしたのは、一体どこの誰ですか?
「大丈夫だよ。あの子、ちょっとやそっとじゃ壊れないし」
 そういう問題じゃない。
「何より、まっすぐ一生懸命だからね。王様たちもきっと助けてくれる」
「……まぁ、そう思うけどね」
 何だかんだ言いつつ、信じてるのは知ってる。値する奴だってことも……。
「辿り着いてればね」
 知ってるけど、何でそう余計なひと言付けたすかなぁ〜。
「──あっ、そうそう。今ヴァネッサさん来てるから、挨拶してけば?」
 ちょっと待って?ご家族来てるの知ってて、ボロクソ言ってたの?オレ、あなたの方がよっぽど怖ぇよ。
「何よ?」
「何でもありません。いってきます」
 余計なことは言わない。口は災いの元だ。
「やっぱり私も行く。何かおもしろい話してるかもしれないし」
 うん。もう別にいいけどね?
「あ、そうそう」
 まだ何かありますか!?
「おかえり。ケビン」
「……ただいま」
「何よ?」
「何でもない」
 単純に言葉が出なかっただけ。
 だってさ……。今このタイミングでその言葉は、それなりに不意打ちだと思うんだよ。……我が姉貴様。




 


 声をかけて扉を開けて、飛び込んできたのは挨拶しがたい曇天空気。
 一瞥だったけど一応長は気付いてくれたから、つまりはここにいても構わない。そう察して端っこ待機。
 ちゃんと良い子に大人しくしてますよ。
「──はぁ……。あの子から報告がくるのが1番なんだけどねぇ」
「状況が状況だからな。恐らく謁見も難しいのだろう」
「だからって手紙1枚……。……はぁ、ここら辺で私は後悔しておくべきだろうね」
 話の内容は当然と言うべきか、やっぱりレイのことだった。
 そっか。あれから連絡寄越してないんだな。それなりに時間経ってるはずなのに……。……本当に大丈夫だろうな、あいつ。
「ヴァネッサ。心配なのはわかるが、そう気に病むな。レイはきっと無事だ」
 そりゃ、ヴァネッサさんだって心配する。
「あの子に報告書なんて書けるわけないんだよ」
「……は?」
 うん?
「報告書の書き方を教えてないんだ」
「いや、そうじゃなく……」
 うんうん。そうじゃないよな?
「この手紙見たかい?完全に私信じゃないか」
「そりゃあ、ヴァネッサに向けているのだから……」
「私に書いて長に書かないバカ孫だよ」
 そう言って、テーブルに置かれた手紙をトンと指で叩いたヴァネッサさんは、盛大なため息をついた。
「……まぁ、あれだ……無事を知らせようという、心遣いは、彼らしいんじゃないか?」
 わぁ〜、長が反応に困ってる〜。
 そして姉貴も結構失礼。一応顔俯けてるけど、忍べてないから。普通に肩震えてるし、それなりにダダ洩れてるから。
「心遣いは結構。だからって内容がねぇ……誰が観光をしろと言ったんだい」
「だからそれは……時間が出来てしまったからで……」
「私が言ってるのはね?あの子が使者という自分の立場もすっ呆けて、グランティーダまで楽しんじゃうんじゃないかって事だよ」
 長から消えない困り顔。
 額に手をあてて力なく首を振ったヴァネッサさんは、孫の安否をこれっぽっちも案じちゃいなかった。
 ……うん、知ってる。
 ヴァネッサさんが、レイのことをどう思ってるかは。
 だからこそ……あえて言おう。
 
 ヴァネッサさん、ひっでぇ……。



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