キョロキョロ、キョロキョロと。
 隣を歩くこの子の顔はよく動く。
 ……この村にそんなに珍しい物なんてあったかねぇ?



 賑わう人ごみの中をヴァネッサとステラは歩いていた。
 腕の治療を終え心配しているだろう相手方に手紙を送り、修理に出したイミタルを回収しての買い物途中。
 綺麗に治った白い肌を、これまた無事に直ったイミタルから取り出した代えの黒で覆ったステラはさっきから嬉しそうに商店を眺めている。
「楽しいかい?」
 思わずそう聞きたくなるほど綻ばせた頬に、クリームをつけて。
「うんっ!」
「そうかい」
 焼き菓子の最後のひと口を呑み込んで尚気付いていない本人に代わり拭ってやれば、照れくさそうに種類を変え笑う。
「あ、あれなんだろ……?」
 餌付け作戦は功をそうしたようで、直らなかったもう1つのイミタルと食べられなかったお菓子の事はもう忘れたようにキラキラと目を輝かせ歩いて行く。
── 替わりにはなった、かね。
 本当は、取り出したお菓子は見た目何でもなかった。
 ただ「日が経っているから」と懸念したヴァネッサが取り上げれば、泣きだしそうになったステラを見かねて別の物を買い与え、現在に至っている。
── 今は笑っているけど、あの子……こんなんで本当に旅が出来るんだろうか。
 思いがけず孫とそう変わらない年頃の女の子と買い物が出来て嬉しい半面、不安1つ零さず屈託ない顔で笑う姿をヴァネッサは憂慮していた。
 旅の同行者となったレイには、ある程度旅の心得は叩きこんである。
 だから旅立つのが彼1人であったならそう悩みはしないが、今回ばかりはそういうわけにはいかない。果たして孫は旅慣れない少女を支える事が出来るだろうか。
── ……案外、逆になったりしてねぇ……。
「わぁ〜っ!」
 考え、私意に口許を緩めたヴァネッサは聞こえてきた嘆声に顔を上げた。
「……あの子、何やってんだい……」
 その途端に瞳に映ったのは、屋根から飛び降りる黒衣の少女の姿。
 声援が送られる一方で躊躇なく飛び降りたさまに悲鳴も上がり、そんな周囲の心配を余所にステラは軽い音を立て着地したかと思うと、手にしていた灰色の球を少年達に渡す。
「はい、今度は気をつけるんだよ」
 お礼を告げた後ろ姿を見送る彼女の唐突な行動に苦笑しつつ歩み寄れば、ヴァネッサに気付いて嬉しそうに笑う。見て察するに、子供達が屋根に上げてしまったそれを拾いに行ったのだろう。
「随分と身軽だね」
「うん、今日はとっても絶好調だよ」
 事情は呑み込めた。しかし絶好調だからといって簡単に昇降出来る高さではない気がして眉を顰めるが、現に彼女は傷1つ負っていない。
── ……そういえばレイにマナをぶつけたと言っていたし、もしかしたら心得はあるのかも知れないねぇ。
 魔術師である事は否定していたがその可能性はある。
 浮かんだ思考に自得したヴァネッサは1つ頷き、不思議そうな目で見つめるステラの頭を撫でた。
「さて、買い物を続けようか。何か欲しいはあるかい?」
「え〜っと……服はもうあるし……」
 悩むステラの声に、よほど気に入っているのだろう直ったイミタルの中に替えの黒服やらリボンやらが入っていた事を思い出して思わず笑みを零し、
「好きなのかい?黒い服が」
「うん!着てると元気になってビシッと決まるもん」
「そうかい。でも、そればかりじゃあれだろう?時間はあるし、違うのも選ばないかい?」
「一緒に選んでくれる?」
「もちろんさ」
 満面の笑みにつられてヴァネッサも一層表情を深める。

 まるで本当の祖母と孫のように、寄り添って歩く2人。
── レイも女の子だったら……もっと楽しかったのかねぇ。
 ふと、最近はあまり一緒に歩かなくなった本当の孫の事を思い出して『試しにもしも彼が女の子だったら』と想像してみる。
 出来れば女の子らしくお淑やかに。というささやかな願いとは裏腹に、出来上がったのはやんちゃな性格そのままに剣を握る女の子。その後もどう頑張っても凛々しい姿は浮かんでも、お淑やかな少女は浮かばない。
── ……まぁ、無理か。
 まず自分が程遠いのだから……。思惟の末に男の子でよかったのかも知れないと1人内心でため息をつくヴァネッサは、束の間の楽しみを満喫する事にした。



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