本日は快晴。
 窓から差し込む光はこれでもかってくらいに眩しい。
 ……だけど、俺の心は生憎の曇り空だ。



「怒ってる……よなぁ」
 何たって時計はとっくに伝えた時間を過ぎている。
 ようやく用事が終わってこうして足を運んでいるわけだが、彼女が参加していたお茶会はとうの昔にお開きになっていて、その部屋に姿はなかった。
 そして、与えられた自室にも。……ということは、だ。
「また上か」
 窓から見える青。
 待たせ人は恐らくこの色に1番近い場所にいるんだろう。
 好きなのは理解できるし、元気だという何よりの証拠でもある。けど一応「危ないから」と毎回言ってるんだけどなぁ……これだけは本当に懲りない。
 まぁ、文句を言っても仕方がないか。
 そもそも遅れた俺が悪い。今やるべきは、向かうべきは屋上だ。
「誰か止めてくれ〜!」
 踵を返して足早に歩き始めると、聞こえてきた切羽詰まった叫び声。
 ……叫び声?
 一体どうしたのかと振り返った途端、俺のすぐ横をもの凄いスピードで何かが飛んで行った。
 ……いや、ちょっと待て。
「だ、誰か……」
 後ろで追いかけてきた男の情けない声が聞こえてくるが、とりあえずそれは無視。
 ほぼ一瞬しか見えなかったけど、あれって……。
 速さを物語る風が体を押す。その発生源へ首を動かした俺の視界の先で白い影は急停止、勢いよく反転したかと思うと今度は鳴き声を上げながら突進してきた。
 だからちょっと待てっ!
「キュ──!?」
 名前を呼ぶ間もなくそいつ、キューイは俺に体当たりをかましてきた。
「〜っ!」
 何があったのかとか、室内をこんなスピードで飛んだら危ないとか、問いたいことは色々あるがとりあえず……痛ぇよ……。
「キュ〜ッ!」
 声も出せずに腹を押さえる俺とは違って、ぶつかってきた白色の小竜に大したダメージはないらしく、反省の色を見せることなく尻尾を腕に巻きつける。
 だから痛いんだって、加減しろ……。
「た、助かった……仕事頼もうとしたら、急に逃げ出して……」
 息を切らせた男が隣に並んで膝に手をついた。
 言葉通り仕事の途中だったんだろう、その手には届けてもらう予定の手紙を持ったまま。
「それ、ヤバい物が入ってんじゃないだろうな?」
「ち、違う」
 こいつは1度請け負ったことはきちんとこなしてくれる、結構真面目な奴だ。
 そんな奴が嫌がるとか、疑いたくもなるだろう?
「食材の、注文書……買い忘れがあって明日の飯がピンチだ」
「そりゃヤバいな、ってお前はどうしたんだよ!?」
「キュ〜!」
 話している最中にも腕はぐいぐいと腕を引っ張られる。
 ……こいつ、慌ててる……?
 いつもと違う様子が気になって引っ張られるままに歩いて行くと、辿り着いたのは窓の前。開くと同時に外に飛び出したキューイは、忙しなく翼を動かしてある場所の周りを飛び回る。
 そこは……。
「……教会?」
 あんなところに何の用があるんだ?
「キューイ、俺急いでステラを迎えに行かなきゃいけないんだよ」
「キュ、キュ〜ッ!」
「おいっ、だから引っ張るな」
 焦ってるのは雰囲気でわかるが、わけがわからない。お前は一体何が言いたいんだ?
「一緒に行くか?」
「ダメ!オレは仕事を頼みたいんだよ」
「買い忘れたお前が悪い、頑張って走れ」
 つーかこんなところで押し問答している場合じゃないんだよ、俺は。
 ほら、他にも人が歩いてくるから。
 通行の邪魔になるし、よくわからないし諦めてくれ。
「エアルッ!お前いいところに。ちょっと一緒に来い」
 思いのほか強い力に腕を振りほどくのを躊躇っていると、今度は歩いてきたそいつらに腕を掴まれて強引に歩かされる。
 頼むから……誰か俺の主張を聞いてくれ……。
「悪いけど、俺先約がある──」
「後回せ。緊急事態だ」
 半ば引きずられてる勢いに何とか言い訳を試みたけど、面白い程即答で却下された。
 遮られたその言葉を表すように、足取りは確かに随分早い。
 だからってそんなこと言われても……こっちも結構重要だったりするんだけどな。
「キュ〜!」
「ちょっ!?やめろ!」
 俺が困ってる一方で、盛大な雄叫びを上げた小竜は頭を叩いてくる。
 痛い、痛いから。
 両腕掴まれてんだぞ?避けられないこの状態じゃ本当に冗談にならないからっ!
「……10分!キューイ、10分待ってくれ……あれだ、先ステラのところ行ってろ」
 妥協案に尻尾はピタリと止まった。
 納得、してくれたのか?
「助かる」
 物理的にも。精神的にも。
 けど結局、小竜は俺の後をついてきた。
 本当に今日はどうしたんだろうな……?いつもだったら間違いなく主人のところに飛んで行くはずなんだけど。
 それよりも、何で今日はこんなにバタバタしてるんだ……。
「怒ってる……よなぁ」
 こっちだって用事があるってのに。
 言っても離してもらえそうにない強引な空気に、俺は文句代わりにため息を吐き出した。



 ドタバタ劇に巻き込まれた青年。
 彼もまた慌てる事となったのは、それから20分後の話。
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